保存の困難な歯を残す一つの方法(再植と外科的挺出)

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歯は体の他の組織と異なり自然治癒力はありません。
一度失ってしまった部分を修復するこことはできず、生えてきた時が一番良い状況であり虫歯などによって徐々に失われていきます。我々歯科医はそれを代用の材料で修復する訳ですが、それには限界があります。歯根(歯の根)がある程度の長さがあれば、土台を立ててその上にクラウン(被せ物)を入れることが可能ですが、歯肉の下の方まで虫歯が進んでしまった歯や、欠けてしまった歯はもはや通常の方法では被せることは不可能になり、抜歯という診断が下されます。ではこういった歯を残すことは本当にできないのでしょうか?場合によってはそれを可能にする方法がいくつかあります。
再植と外科的挺出は文字通り一度歯を抜いて抜歯した穴に再び歯を戻すという方法です。
歯を支える骨の下まで虫歯や破折線が進んでしまっているケースや、内部から神経の治療をすることができなくなった歯などを抜歯し再び抜歯した穴に戻します。ここは患者さん用のHPなので詳細な解説は割愛しますが、天然の歯には優れた能力があるので、高い確率で周囲の骨と歯は再び付いてしまいます。

【症例1】外科的挺出

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001左上の第一小臼歯はすでに他院にて修復処置がなされていましたが、クラウンの下に虫歯が進行していました。ところがこの患者の場合、前の歯と2つ後ろの歯がすでに抜かれており、この歯を失うと固定式のブリッジを入れる事ができません。患者の年齢がまだ30台と若いこともあり、固定式の修復を試みるべく、外科的挺出にチャレンジすることにしました。

002土台に使われていたピンを外して見ると歯の後ろ側から出血し、既に穴が空いている状況でした。

003抜いた歯の状態で穴の一番下の所から有効に使用できる歯根の長さは10mm弱ありますので、外科的挺出に適応すると診断(8mm以下は難しいとされています)しました。

004このようなケースではそのまま抜いた穴に歯を戻してしまっては、穴の位置が歯肉の下に戻ってしまいます。宙に浮かして固定するか、歯の向きを変えるなどして理想的な位置を模索します。丁度このケースでは歯を前後逆向きに入れ替えることで、適度な深さに落ち着く位置を見つけ、縫合して固定しました。
再植とは単に歯を抜いて元に戻すことを意味しますが、浅い位置に固定し直すという事で我々はこのようなケースを外科的挺出と呼びます。

再植後の経過は良好で、歯の動揺はみるみる収まりブリッジをセット、今は問題なく噛めるようになっています。