保存の困難な歯を残す一つの方法(エクストルージョン)

歯肉の下深くまで進行した虫歯の保存方法にエクストルージョン(矯正的挺出)という手法があります。
エクストルージョンとは矯正力をかけて歯を引っ張り出す方法で、再植に比べ外科的な手法を取らない上抜歯時に歯を壊す心配がないので比較的安全な方法です。
ただし矯正には
1.矯正装置を一定期間口の中に装着しなければならない。
2.動かした後も暫く固定期間が必要。
3.歯を動かすのと同時に歯肉も上がってしまうので、後日外科処置が必要な場合がある。
というデメリットもあります。
再植のような外科的な手法とどちらが良いかという選択ではなく、歯の状況に応じ歯科医側が適切な手法を提案することになるでしょう。
症例数は多いのですが、画像を撮影していないものばかりでしたので、現在治療中の患者さんの経過をアップしていこうと思います。

【症例1】※ 画像をクリックすると大きく表示されます
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患者は30台女性、歯の痛みを主訴として来院されましたが口の中は残根状態(歯の根しか残っていない状況)が多数、欠損した場所も放置され見るも無惨な状況でした。

001.1.1この患者の一つのキーになる歯が右上の犬歯です。虫歯の進行は著しく、骨の上に残っている部分は僅か、このままでは保存不可能ですが、後ろの第一小臼歯は喪失、第二小臼歯は虫歯が酷く保存は不可能です。犬歯を抜いてしまうと中間3本の欠損となり、入れ歯という選択になります。入れ歯は2番にクラスプを架ける事になるので審美性も大きく損なわれます。この歯の場合5mm以上引っ張り出してもレントゲンで有効な歯根の長さが得られると考え、装置を装着しました。

IMGP1491エクストルージョンの装置は単純な構造で、上部に鉄棒のような頑丈なワイアーをセット、挺出する歯にフックを付けてゴムの弾力を利用して引っ張るだけです。歯は挺出方向には比較的弱い力でも動いていきますので、時々ゴムを交換します。

2015-10-28 17.33.10装置セットからおよそ1ヶ月後のレントゲンです。向かって右隣の2番の根の先との位置関係を比較すれば、骨の中を歯が移動しているのが分かると思います。もはや当初設定したワイヤーとフックの距離は殆どなくなりました。

 

 

~続く~